【現場訪問記】「ICT(だけ)を活用して、個に応じた学びを実現」という無理難題

こんにちは。前回からスタートしたこのブログですが、大学の先生や教育企業の方などから、お会いした際に「あれ、良いよ!」という声をいただき、安心して書けるようになりました。調子づかない程度に頑張ります。

 

先週は、東京から京都に移動し、京都府立清明高等学校に伺ってきました。清明高校は、昨年度新設された昼間二部制・単位制の府立高校です。様々な背景を持つ生徒の個別支援として、1人1台のICT環境を整備されています。

清明高校にも、先日の投稿と同じく、総務省ICTドリームスクール事業にご参加いただいており「学び直し」を主とした「アンダンテ学習」の時間を中心に、eboardをご活用頂いています。

 

アンダンテ学習

この清明高校のアンダンテ学習は、高校が設置できる学校設定科目で、単位認定される授業なのですが、多くの方がイメージされる「学校の授業」とは、かなりずれがあるのでは、と思います。一言で言えば、「ICT教材を活用した、個別の学び直しの時間」です。 

以下、先生方へのインタビュー動画。イケメンだわ。

 

具体的には、

ICT教材:1人1台iPadを持っているので、学習にそれを活用できます(もちろん使わなくてもいい)。主に生徒が利用しているので、eboard、Classiラインズドリルです。ググって、学習に適したホームページで学ぶ子もいます。

個別学習:その時間に学習する教科や単元に、指定はありません。生徒自身が考えて、自分の復習したいところ、苦手なところ、伸ばしたいところを学習していきます。動画を見ながら学習する子もいれば、ひたすら問題を解く子、資格試験(英検など)の勉強をする子など、様々です。

学び直し単位制高校に来る子の環境や背景は、様々です。アンダンテ学習では、学校の授業に合わせてというよりは、自分が学習が遅れてしまっている・苦手な教科や単元を学びます。「学び直し」「ふりかえり」というやつです。さかのぼりの大きさも、生徒によってまちまちです。 

 

わぁー素晴らしい、環境だわ。まさに 

ICTを活用して、個に応じた学びを実現

どこかの事例集やサービス紹介に出てきそうな文言ですが…

 

まぁ、そんなものは、実現しませんわ。

考えてみると分かるんですが、上記①〜③の条件だけで、1人で学べる人というのは、

①自分で学習に適した教材をえらぶこと

②自分の苦手な教科や単元を適した学習方法で学ぶこと

③学び直すという(心理的にしんどい)ことに取り組めること ができる人です。

そりゃ進学校に通う、一定程度意欲の高い子はできるかもしれませんが、特にeboardが関わる多くの現場の子には、非常に難しい(ってか、これできてたらそもそも勉強苦手になってなくない?)。そして、実はこの3つは、これまでの学校教育で教えられなかった・身につける機会もなかった力です。

あらかじめ時間ごとに決まった教科を、決まった教材で授業を受けて、決まった宿題をやるのが、これまでの授業ですから(もちろんそうでない授業もあり、増えてきています)。そこでパフォーマンスのいい人が、「できる子」です(なので、できる子すらも、上記3つについては実は怪しいかも…)。

※①、②についで「AI、機械学習等で実現できる」という声もありますが、今のところは、現場で役に立つレベルではないです。また、将来の可能性について全否定するつもりはありませんが、個人的には異論があります。それは、また別の機会に。

 

かつ、これらは社会に出てからは、非常に大切な力です。「21世紀型スキル」とかいうと、思考力・表現力、問題解決力とかで、「プレゼンしよう」「協働学習しよう」「アクティブなんちゃら」しようとか言われるんですが、ちゃんとそこを丁寧に見ている人って、少ない気がします。

www.manabinoba.com

 

「学んだ力」から、「学ぶ力」へ

上記記事の中にもあるのですが、こうした新しい学力を定義しているものの多くが

「学びの学習、メタ認知(認知プロセスに関する知識)」

「学ぶことを学ぶ力」

のような形で、「学ぶ力」を盛り込んでいます。上記の「学び直しを成り立たせる力」は、「自分の学びについて振り返り、学習のプロセスを考えて評価・修正し、また学んでいく」もので、こうした新しい学力観とも合致したものと思います。「学んだ力(学習の成果として身についたこと)」から「学ぶ力(それまでの学習をベースとして、今後何を学び得るか)」への変化です。

 

特に「教育ICT」という場面になると、なぜか「個別学習=基礎学力(テストで測れる基礎的な問題に正答する力)」となり、「一流講師の映像授業を見てると力がつく」、「ドリルをシコシコやって正答率が上がれば万歳」的なところがある気がするのですが、問題はそこじゃないでしょ、と思います。

特に「教育格差」と言われる文脈で、困難を抱えている子については、「学習意欲」や、それ以前の「学習に対する肯定感(学習するという体験や、それによって自分が何かを身につけられるという経験)」、上記のような「学ぶ力」が欠けていることが、ほとんどです。その結果として、点数がついてこない。

 

eboardは、ネット上で無料で使える教材ですが、学校や学習支援の現場を通して、それを届けようとしているのは、こういったところに理由があります。環境や意欲がない子には届けることはできないし、意欲や学習方法などの課題には、現場での人の支援が不可欠だからです。だからこそ、現場でも「はい、導入。さようなら」ではなく、研修やサポートを通して、本当によい学びの形を目指していきたい。

 

それでは、ICTの活用の意味は、どこにあるのか。具体的に現場でどのような支援を行なっているのか。清明高校では、授業内に学生ボランティアがサポートに入り、(もちろんそれで全ての課題が解決するわけではないですが)個々の学習のサポートを行なっています。それは、また次回ということで。

 

eboardの学校・教育現場でのご利用や、研修・サポートについては、

support@eboard.jp までご連絡ください。

 

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