【現場訪問記】公営塾って?@島根、岡山

なかなかブログをコンスタントに書き続けるって、大変ですね。もちろん仕事としても意味があると思って書いていますが、仕事忙しい中続けられている方、尊敬です。 

さて、今週は島根県岡山県の公営塾、放課後学習の eboard 研修・サポートに伺わせて頂きました。前回と話が変わりますが、今回はこの「公営塾」というものに焦点を当てたいと思います。

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研修と言うよりは、自分は事例やフレームワークを紹介して、考え、話し合ってもらいました。

「公営塾」とは

そもそも、「公営塾」って何でしょう?まさに今週伺った島根県などの地方では、この言葉を聞くことが増えてきました。一方、東京の方にはよく「公営塾って、何ですか」とストレートなご質問を頂くことが多いです。ごもっともと思います。私も島根に関わらせて頂いた3年ほど前まで、知りませんでした。

そこで、今回は私の知りうる範囲ですが、公営塾を中心に、一般的な、できるだけニュートラルな説明を試みたいです。

島根県の取り組み

おそらく「公営塾」という言葉が広く認知されたのは、島根県海士町隠岐島前高校」の公営塾(隠岐國学習センター)、高校魅力化プロジェクトの取り組みではないでしょうか。

berd.benesse.jp

ここでは、私からの説明は適切でないと思うので、詳細は割愛させて頂きますが、思い切って一言で言ってしまうと、「入学者が激減し、廃校の危機にあった高校が、公営塾の設置など高校魅力化の取り組みを通して、入学者を増やし活性化した。さらに、その教育における変化が、地域全体に広がり、地域活性化にも効果をもたらした」というものです。

もちろんここには、一言では全くすまないプロセスがあり、私はそれについて語れないので、よければ書籍などご参照ください。

未来を変えた島の学校――隠岐島前発 ふるさと再興への挑戦

未来を変えた島の学校――隠岐島前発 ふるさと再興への挑戦

 

 そこから、高校魅力化のモデルを広げようと、島根県でも後押しをして、島根県内の中山間地域の高校魅力化がスタートしました。これが2012、13年ごろからでしょうか。また、総務省の地域おこし協力隊の制度を活用して、教育に取り組む若い方が、こうした地域の学校や教育現場に関わるようになりました。こうした中山間地域も、同じく入学者減少や廃校の課題を抱えていたからです。

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↑の図は、私なりに中山間地域での教育の現状をまとめたものです(本当は、こんな図でまとめるほどカンタンではないですが…)。

「学級内の学力階層化」書いているのですが、「固定化」の方が良いかもですね。1学年1クラスの学級が、小学校(複式のケースも)から中学校、場合によっては高校まで続き、公立入試も倍率割れする状態で競争意識は働きづらく、「私は勉強できないもんだ」というのが固定化してしまう傾向にあります。

「島根の教育は、元気ですよねー」と言われる方が多いのですが、こうした危機感、そして海士町というモデルを、学校や地域、行政が持っているというのが、元気な理由と言えるのではないでしょうか。さらにそうしたモデルが、今全国の離島・中山間地域に広がってきています。

 

公営塾のジレンマ?葛藤?

ただ、上記のような成り立ちによる公営塾は、構造上いくつかのジレンマを抱えているなと感じることがあります。実際には、そんなところを気にせずに「町の子にいい教育を」と取り組まれている方ばかりですが、ふと気になる時や、ここについて苦労されているのを感じる時があります。

  • 高校は県立、公営塾は町立。

高校というのは、県立です。県教委の管轄です。なので、原則先生も予算も県から割り振られています。公営塾特別予算が、ドカンと特定の高校にのみついたりはしません。つまり、公営塾をやろうと思うと、町民の税金から町予算でやることになるわけです。「町の子が通う高校を、どうにかせんと」となると動き出す訳ですが、一方で、本来町が予算を割く小中学校(町教育委員会の管轄)もある訳です。実際に、中学生を対象に「公営塾」を開設されている自治体も多くあります。

  • 学力を上げると、町外に出てしまうのでは…

これは、特に中学の公営塾に言えることかもしれませんが、町外の高校に進学する子は、主に「やりたい部活動が町内高校にない」「学力をより高めたい」子です。中学の公営塾で学力が伸びると、「私は町外の高校でもっと学びたい」となる可能性もある訳です(実際にはあまり聞かないけど…)。また高校でも、都市圏への大学進学実績は、高校の魅力化にもつながりますが、理想としては、そうした子に町の担い手として帰ってきてほしい。学力だけ上げる予備校では、ダメなわけです(ここの考え方には、賛否両論あると思います。個人的には、10年後・20年後のより厳しい環境で担い手になるというなら、外で大いに学んで、超優秀人材で帰ってこないと厳しいと思う。町も、その子も)。

  • みんな(全部の高校)は魅力化できない。

「魅力」は相対的なものです。特に、高校生や保護者にとっては、行ける学校は1つなので、必然的に「AよりBがいい」の形でしか「魅力」は表せません。同じパイである以上、みんなは魅力化できない。「じゃあ、どうするんだよ」という質問への答えは、自分は分かりません(島根の方、話したいです)。競争原理でことが進むのでしょうか。

 

お前(eboard)は、どういう立ち位置なんだ?

最後に、、、島根に通わせて頂くようになった最初の頃は、こういう風な発言をよくくらいました。ぐはっ。「中村くんは、〇〇町にも行っとるそうやけど…」「なんや、君は〇〇町のためにやってくれとるんちゃうんか」など。

申し訳ないですが、微塵も理解できません。

いいものは発信すべきだし、共有すべきだし、だからこそ魅力になるのではないでしょうか。実際にeboardの活用について、他の自治体からの視察を受け入れて頂けるところは、その良さが外に伝わっていきます。ですが、島根の素晴らしいところは、もう「いいものを共有していこう」という文化ができつつあるところです。自治体の横のつながりが強いなと思います。最近変なこと言われない!

 

では、私たちは何がしたいのか。eboardが実現したいこと。現場の研修でもお伝えしますが、

「学びをあきらめない社会」を実現すること

です。「自分の力で学ぶ」「学び続ける力」を持って社会に出てほしい。そこにどこの町の子だとかは、全く関係ない。また、それは子ども達に最低限保障されるべきもので、全国にあまねく広げていかねばならないものです。現場の方々と、目の前にいる子へ、教材や研修・サポートを通して、社会や環境の変化にも耐えられる「仕組み」を作っていく必要があります。

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かなり長くなってしまいましたが、中山間地域の現場に伺うときは、本当にその意義を感じます。これまで学校での勉強にしか触れてこなかった子が(学校での勉強が悪いとかいう意味ではないです!)、ネットを通じて、学びにアクセスすることができるようになります。そうしたツールがあることで、放課後学習の取り組みを、地方でもスタートすることができます。その差分のインパクトは大きい。個人的にも、地方に行くのが大好きです。

 

しかし、今週の現場で一番面白かったのは、

「この動画つくってる、日本語うまい関西弁の外人ってどんな人?」と中学生に聞かれたこと。教育委員会の方と一緒に、「ガリガリの毛むくじゃらの人。今度連れてくるわー」と言っておきました。こういう子ども達にとっての出会いのインパクトも、大きいなと感じます。

※ 動画のほとんどは、その質問をされた純日本人の私が作っています。 

 

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